伊予柑畑に住む昆虫 キムネタマキスイ
今回は私が大学の農学部時代に研究していた昆虫 キムネタマキスイ(Cybocephalus nipponic)についてご紹介します。
虫が苦手な方はこの先はお読みにならないで下さい。
キムネタマキスイをご紹介する前にこちらの虫をご存じでしょうか。
ヤノネカイガラムシ(Unaspis yanonensis)という虫で、柑橘類の葉や枝、果実にまで寄生して汁を吸ってしまい、大量発生すると樹が枯れてしまうこともあるため、ミカンの大害虫と言われています。雌の成虫は固い貝殻に覆われており農薬などもほとんど効きません。
今回ご紹介するキムネタマキスイは柑橘園に住んでいて、このヤノネカイガラムシを食べてくれる昆虫です。
体長は約1㎜の小さな小さな甲虫です。その名の通り、雄は胸部と頭部が黄色(オレンジ)(左)です。雌は全身真っ黒(右)。
これは私が顕微鏡で撮影したキムネタマキスイの写真です。左の写真はキムネタマキスイがヤノネカイガラムシ雄の2令幼虫(白いワタに覆われている)を食べているところ。右の写真はキムネタマキスイがヤノネカイガラムシ雌の2令幼虫(まだ貝殻に覆われておらず柔らかい)を食べているところです。
そしてこちらはヤノネカイガラムシ雌の成虫(固い貝殻を纏っている)をピンセットで葉から剥し裏返した所です。よく見ると貝殻の中になにやら卵のようなものが!
数日後キムネタマキスイの幼虫が孵化していました。孵化した幼虫はヤノネカイガラムシを食べて大きく成長していました。
成長したキムネタマキスイはヤノネカイガラムシ雄の体を纏っていたワタなどを体に纏い中で蛹になっていました。
このようにキムネタマキスイは一生を通してヤノネカイガラムシの生態をうまく利用していることがわかりました。冬の寒い時期は伊予柑の樹の割れ目などで越冬する姿も確認できました。
ヤノネカイガラムシの天敵(ヤノネカイガラムシを食べたり寄生したりする虫)はキムネタマキスイの他にもヤノネキイロコバチ、ヤノネツヤコバチなどの寄生蜂やナミテントウなどが確認されています。しかし、これらの昆虫(特に寄生蜂)は農薬に非常に弱く、農薬を頻繁に使用する農園では天敵も少なくなってしまうことが考えられます。
和泉農園では農薬を使わないことで、このヤノネカイガラムシだけに限らず、自然界の食べる食べられるの関係がバランスよく機能し、一部の害虫だけが大量発生しないような畑を目指しています。
農園主 和泉康平